虹の国の手術室は、やはり虹でした

 南アフリカって、どんな国? という問いに、よく聞かれる答えに

「虹の国だよ」

というのがあります。

 虹の国、Rainbow Nation、とは、アパルトヘイト終了後の全人種参加の総選挙後、大統領に就任したネルソン・マンデラが1994年5月10日の就任演説で使った言葉です。そうしたことから、広く、この「虹の国」が南アフリカを象徴する表現として使われています。

 We enter into a covenant that we shall build the society in which all South Africans, both black and white, will be able to walk tall, without any fear in their hearts, assured of their inalienable right to human dignity - a rainbow nation at peace with itself and the world.
私たちはひとつの契約を結んだ。黒人も白人も全ての南アフリカ人が、人間の尊厳という奪うことのできない権利が守られ、心の中に何の恐れも抱かずに、堂々と生きていける社会、つまり平和な虹の国を作るという契約を自分たち自身、そして世界と結んだのだ。



演説全文はこちらに(ペンシルバニア大学アフリカ学センター)

 私が「虹の国」を実感したのは、南アフリカに住んで2年近くたった、2015年1月のときでした。

 妻が出産で、入院したときのことです。いろいろあって、最終的に帝王切開になったのですが、私も手術室に入って立ち会うことができました。

 手術室に入る前、麻酔医が「人によっては血を見るのが怖いから、子どもを取り上げるときに入る、っていう人もいるけど、どうする?」と聞かれたのですが、「別に最初からでいいですよ」と一緒に手術室に入りました。

 帝王切開自体は滞りなく終わって、娘も最初「?」でしたがすぐに泣いて、看護師さんたちに促されて記念撮影もしました。看護師さんが「マスクを外さないと、顔が写らないじゃない」と、平気でマスクを外させたのにはびっくりしました。その間も写真の向こうでは、縫合が続いていたりするし。。。

 それはさておいて、何に「虹」を感じたかというと、室内の人種構成。

執刀する産婦人科医 インド系
麻酔医 アラブ系
執刀医の横につく助手 白人
脇でスタンバイしている小児科医 黒人
後ろで色々動く看護師 黒人
妊婦 タイ人
隅っこでカメラを持つ夫 日本人

 もちろん、部屋全体の写真を撮っている余裕はないので、その場面の写真はないのですが、「ああ、南アフリカで出産するんだ」という実感が湧いた瞬間でした。

 ちなみに病院は私立の大手病院チェーン「ネットケア」のひとつ、ネットケア・リンクウッド病院(下写真)。

 その後、娘は、別のネットケア系列の病院で、手術を受けることになるのですが、小児病棟の看護助手は片足に障害がありましたし、病院の受付も難聴の人でした。そういう障害がある人が、私立の医療機関で堂々と働くのも、「虹」には人種の違いだけではなくて、障害の有無も含まれる、という社会のあり方の現れなのだと思います。

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